近く パチンコ

木質バイオマスエネルギー利用に関する懐疑論について

一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会
副会長 加藤 鐵夫

最近、木質バイオマスエネルギー利用のGHG削減効果について問われる機会が多くなっています。その中でティモシー・D・サーチンジャー氏(プリンストン大学)が「グローバルネット」誌で公表された文章(2022年3月)のタイトルが「石炭より悪い輸入木質バイオマス」とされていることに驚かされました。大気中のCO2濃度が増加し、それが地球温暖化を招いている、その原因は、産業革命以来の化石資源利用であるとされていたのに、木質バイオマスが石炭より悪いとしているのです。化石資源利用が問題とされる根源的な理由は、それが億年以上前に地下深く貯蔵された炭素を掘り起こし、その結果が大気のCO2濃度を上昇させているということです。産業革命以前の人間活動は、基本的には地上部の資源(地下を含むとしても数m以内程度)を利用して行われており、そこから排出されるCO2は、長くても100年オーダーのレベルでは地上部で循環し、大気のCO濃度の上昇につながることはほとんどありませんでした。特に、木質バイオマスについては、燃焼により排出されるCO2は森林に吸収されており、排出の増加にはつながらないとされています。

しかし、このようなある意味常識的な見解を越えて、木質バイオマスと化石資源の燃料利用による排出量の比較が問題にされているのは何故でしょうか。しかも、世界の学者の方が同意しているとの権威付けまでされています。

私は、学者でもなく各種の論文に目を通しているわけでもありません。前記の文章を読んだ限りの理解ですが、このような文章の考え方の因になっているのは、「2050年においてCO2排出量を実質ゼロにしようとしていること」のように見えます。木質バイオマスの燃焼により生じるCO2は、伐採された森林が復元しそれを吸収する、とされていますが、そのためには、長期間、例えば50年以上の時間が必要で、2022年に伐採したものは2050年段階では、森林が復元されておらず大気中のCO2濃度の上昇に影響するということです。そこで、森林伐採を「CO2排出」とすると、木材を燃やすことで生み出される単位エネルギー当たりの炭素は石炭や天然ガスよりも多いことから、木質バイオマス利用の方が化石資源の利用よりもCO2 排出量が多くなるというものです。つまり、2050年という時点が問題で、より長期的な視点では森林の復元によってCO2が吸収されるということが否定されているわけではないようです。ただし、伐採された森林が復元されるとは限らないという別の問題もありますが。

しかし、このような時点を問題にしても、燃焼により生じたCO2は、他の森林が成長することにより吸収している、いわば、伐採と吸収を面的、地域的に捉え、そのマスの中でCO2が吸収されている、といった意味では大きな時間的なずれはないということも言えます。我が国のみならず他の国でも、森林の発揮すべき多様な機能が持続されるように、そのための一定地域を単位として森林計画が樹立されており、その基本となるのはこのような面的に森林を捉える考え方です。つまり、面的に捉えられる成長量の範囲内で伐採されるとすれば、それは、面的な範囲にある他の森林により吸収されているのです。

このような議論に対しても、2050年という時点で考える立場から次のような反論がされています。『森林を伐採しなければ森林は成長しCO2を吸収するということで、伐採しないことは、CO2の排出を減少させるのみでなく、その森林が成長することによって2050年には、CO2をより吸収することになる』、つまり、森林は伐採せずそのまま放置して、吸収源として取り扱うことが2050年のCO2排出量の削減にはベストだというのです。

しかし、このような考え方は、やはり2050年の時点的捉え方と言わざるを得ません。

森林の成長量は、一定の成長期間を過ぎ成熟期を迎えると加齢とともに減少し、最終的には、成長しない、成長量が見込めない状態になる、例えば100年後、200年後を考えれば、森林はCO2を貯蔵してはいるものの吸収には寄与しないという状態になります。また、そのような状態になるだけでなく、例えば100年の間には、風害や病虫害、森林火災等により森林が破壊されたり、林木自体が腐朽したりするリスクがあります。そのため、森林管理として間伐が行われたり、森林の若返りとして主伐が行われたりしています。

このような行為は単なる伐採ということだけに留まりません。伐採された林木は、木材として建築材になったりします。木造建築になれば、それ自体でCO2の貯蔵が継続されるとともに、それが鉄やコンクリートの使用を減少させるとすれば、それらによるCO2の排出を抑制する効果(効果)を発揮します。

以上、述べてきたことは、木質バイオマス利用に関する議論は、もう少し長期的な時間軸と面的広がりを意識して論じるべきではないかということです。そのような視点で見れば、エネルギー利用も含む木材利用は、大気中のCO2の増加につながらず、更には、化石資源の利用から発生するCO2の発生を抑制する代替効果を有するものであるとも言えます。

もちろん、そのためには、森林の減少につながることは避けるとともに、森林を主伐した後には再生させ、適切な森林管理がされていくようにしていくことが重要です。また、その場合、森林は、地球温暖化防止のみならず、多様な機能発揮を果たしており、それらの機能が適切に持続していくようにしていかなければなりません。ただし、木質バイオマスへの批判として、燃料に利用するために、とある国で貴重な原生林が伐られその後放置されているといった指摘もありますが、そのような貴重な原生林の保全の問題は、規制も含め検討、対処されていくべき問題であり、木質バイオマスが地球温暖化防止に貢献しないと学術的にいうこととは違っています。

木質バイオマスに対するもう1つの問題は、LCA(資材の製造・流通・加工・消費・再生産という過程のGHG排出量)に関わるものです。

木質バイオマス燃料を供給する過程の加工・流通等にはエネルギーが使われており、その各段階でCO2を排出しています。実際、それらの行為には、軽油やガソリン等の化石資源が使われており、これら化石資源の利用は極力抑制することが必要です。そのため、現在、それぞれの行為でGHGの発生がどのようになっているのかを明らかにし、それらによるGHG発生を規制していくこととされています。そのことは重要な取組ですが、このようなLCAにおけるGHG排出量の問題については、木質バイオマスのみに留まらず化石資源の利用や再生可能エネルギー等の全てに関わる問題であり、できるだけデータを公開し、国民が判断できるようにしていくことが必要です。

木質バイオマスの地球温暖化対策上の位置づけに関するこのような議論は「厄介な問題」とされているようですが、実は、議論の前提、あるいは、論議の拠って立つ根拠が明確にされずに議論されている場合もあるのではないかという気もします。しかし、再生可能エネルギーを進めていくためには、極めて重要な時を迎えています。その中で時には内容が理解されずに「木質バイオマスは、本当は温暖化防止対策としては問題があるようだね」などと言われますと、やはり、そのようなことを論じる人は内容を精査し、論拠を明確にする責任があるように思われます。

このような議論で木質バイオマスエネルギー利用を否定的に考えられた場合、今後の地球温暖化対策としてはどのようなことを進めることになるのでしょうか。

地球温暖化防止は、大量生産、大量消費を前提とし、効率が優先され、グローバルに人や物が行き交う、これまでの大都市集中型、エネルギー多消費型の社会自体を変える必要があるといえます。その対極となる分散型社会に変革していくためには、それぞれの地域で木質バイオマスエネルギー利用が推進されるべきと考えます。現在、農山村地域は、人口減少、高齢化の中でその崩壊さえ取り沙汰されています。しかし、木質バイオマスエネルギー利用は、それぞれの地域にある資源である木材を使うとともに、エネルギーの自立化、地域経済化を図ることを促します。燃料の生産供給、利用システムの運営、森林の整備等として雇用の場にもなります。 私自身は、その意味で木質バイオマスエネルギー利用の推進は欠かせないと思っています。

関係文献
(一財)地球・人間環境フォーラム機関誌「グローバルネット『特集 気候危機を悪化させるバイオマス発電〜1.5℃目標との整合性を問う〜』」2022年3月号(通刊376号)